南太平洋の小さな島国・ナウル共和国の公式Xアカウントが、日本のSNS界で異例の存在感を示している。
人口わずか約1万人の国のアカウントが58万人以上のフォロワーを誇り、炎上とバズを繰り返しながらも日本人の心を掴み続けている。
その背後にいる「中の人」の正体と、驚くべき戦略の真意に迫ってみた。
人口を50倍超えるフォロワー数が示す異常な人気
ナウル共和国は太平洋南西部に浮かぶ、面積21.1平方キロメートル(東京都品川区とほぼ同じ)の世界最小の共和国だ。この小さな島国の政府観光局日本事務所が運営するXアカウント「@nauru_japan」は、2020年10月の開設以来、驚異的な成長を遂げている。
2023年1月の時点では既に42万人のフォロワーを抱えており、現在は58万人を突破。これは本国の人口の約50倍に相当する数字で、ハワイの観光局よりも多いフォロワー数を誇っている。
「中の人」の素顔と経歴が明らかに
これほどの人気を集める「中の人」の正体は、意外にも平凡な日本人だった。東海テレビの取材によると、この人物は:
- 太平洋全般の外交関係の仕事をしていた経験者
- ナウルの大統領や要人との人脈を持つ
- 2020年にナウル共和国政府観光局の立ち上げに参加
- 完全ボランティア(無給)でアカウント運営を行っている
- 狛江市出身で八王子育ちの東京都中野区在住
時事通信の取材では、「ライフワークとして国境を超えた民間交流に取り組んでいたところ、ナウルの政府関係者から『日本で知名度を上げることができないか』と打診された」と明かしている。
戦略的な「ゆるさ」で日本人の心を掴む手法
バズった投稿の分析
最も話題になった投稿の一つが、2022年サッカーW杯での日本vsスペイン戦後の投稿だ:
三笘薫選手のゴールラインぎりぎりでの折り返しを見て、「ナウル国旗と似ている」と思いついたという発想力が話題となった。ナウル国旗は太平洋を表す青地に黄色のライン(赤道)が横切り、左下に白い星(ナウル)があるデザインで、確かにゴールラインぎりぎりのボールに似ている。
「関係人口」を人工的に増やす戦略
中の人は具体的な戦略を明かしている:
「自分の地方や地域の話がでますと自分事として捉えてくれるような気がしますので、無理やり関係性をつくるというか、関係人口を人工的に増やしていくという発想ですね」
実際に日本各地との比較投稿を頻繁に行い:
- 「ナウルは大阪環状線の中に入りますか?→少しはみ出る」
- 「フォロワー数が鳥取県民人口52万6338人に到達」
- 東京湾にナウル島を重ねた画像など
「真正面から捉えすぎない」アドバイス
町おこしを考える自治体向けのアドバイスも興味深い:
「役所の方は真面目なので町おこしや観光を正面に捉えすぎちゃっている気がします。そうすると似たような投稿ばかりになってしまいますよね」
大阪万博で生まれた「ナウル台座」現象
2025年の大阪万博では「ナウル台座」が大きな話題となった。直径約1.5メートル、高さ約80センチの白い円柱に何も展示されていない状態が続き、「心が綺麗な人には台の上の展示物が見えるはず」という投稿でバズった。
中の人の告白によると:
「実際はモノが到着していなくて、というか置く予定のモノもまだ決まってないみたいなのが本当です。万博終了まで(何もないまま)いくかもしれない」
この「大らかすぎる」国民性を逆手にとって話題作りに成功したのは見事な戦略だった。
炎上を乗り越えた2024年のAI画像問題
生成AI投稿で大炎上
2024年9月、ナウルアカウントはX(Twitter)の生成AI機能「Grok」を使ってナウルの風景画像を投稿したところ、AI反対派から猛烈な批判を受けた。
批判の内容は:
- 「蛮族に国際社会の話は難しかったのかね」などの差別的発言
- DMでの謝罪強要
- 連日の執拗な誹謗中傷
結果として投稿を削除し、中の人は一時休止を余儀なくされた。
2024年12月の「逆襲」
しかし2024年12月、Grokが一般ユーザーに無料開放されると、ナウルアカウントは見事な反撃を見せた:
この冷静で理路整然とした反論は多くの支持を集めた。
真の狙いは「知名度向上」という長期戦略
観光効果は限定的も着実に成果
実際の効果は:
- 日本人観光客:コロナ前年間数名→現在は二桁
- グッズ販売:「一個も売れない日もある」程度
- 万博パビリオン:毎日数百人が「ナウル台座」目当てに来場
本当の目的は認知度向上
中の人が語る真の目的:
「おかげさまで既に52万を超える方にフォローいただいており、見て知っていただけるだけでありがたいですし、それが目的ですので、特に困っていることはありません」
「日本国内におけるナウルの知名度向上にはある程度成功したと感じていて、大変ありがたいと思っています」
日本を「ピンポイント」で狙う理由
戦略的な日本選択
ナウル政府が日本市場を選んだ理由:
- 歴史的つながり:第二次世界大戦で日本に占領された歴史
- 現在の友好関係:車両のほとんどが日本の中古車、救急車・消防車も日本製
- 「ファミリーマート」という名の島唯一のコンビニ
- 経済的現実:限られた予算で最大効果を得られるSNS戦略
費用対効果の高いマーケティング
- 予算:ゼロ(完全無料のSNS活用)
- 人件費:ゼロ(ボランティア運営)
- 効果:52万人の認知獲得
これ以上コストパフォーマンスの高い観光マーケティングは存在しないだろう。
まとめ:「何もない」を武器にした天才的戦略
ナウル共和国Xアカウントの成功は、従来の観光マーケティングの常識を覆すものだ。豪華な観光資源や潤沢な予算がなくても、「ゆるさ」「親しみやすさ」「話題性」を武器に、日本人の心を掴むことに成功した。
炎上すら話題作りの材料とし、批判を受けても冷静に対応する姿勢は、まさにプロのSNS戦略家の手腕を示している。人口1万人の小国が、SNS一つで日本中に知られる存在になったこの現象は、デジタル時代の新しい外交・観光戦略のモデルケースとして、今後も注目され続けるだろう。
参考記事:

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